今世の中では脱ハンコの流れがあり、主に公的機関や大手企業などを中心に印鑑ありきの業務手続の縮小・廃止に向かっています。
今後あらゆる場面で印鑑が必要なくなるのか、それはまだわかりません。
少なくとも、中小企業や個人事業主など民間の小規模事業者においてはまだ印鑑を使う場面があるでしょう。
そんな日本独特の印鑑ですが、フリーランスになろうと思っている人の中にも、実はあまりよく理解していないという人も多いのではないでしょうか?
何を隠そう、私自身がそうでした。
そこで今回は、フリーランスのWebデザイナーやエンジニアのための印鑑の基本知識と持つべき印鑑について解説したいと思います。
個人事業主の印鑑は、法人のように明確に個人用のものと区別されないため、人によって印鑑の使い分け方は異なります。
ただ1つの正解があるわけではないので、当記事では私が考える印鑑の使い分けを言及していきます。
印鑑の種類
私自身も以前よくわからなかったのがフリーランス(個人事業主)に必要な印鑑の種類です。
それがわかれば、自分なりに必要な印鑑も判断できるようになるでしょう。
実印
実印とは、印鑑登録を済ませた印鑑のことで、個人は1人1つのみ持てます。
印鑑登録とは、印影を自治体(役所)に登録する手続きです。
印鑑登録をすると、その印鑑が本人のものであることを公的に証明する意味を持ちます。
また、印鑑登録をすることで印鑑登録証明書を発行できるようになります。
実印と印鑑登録証明書を併用すると、捺印が本人の意思であることの強い証明となります。
例えば、裁判等では非常に有力な証拠として扱われます。
フリーランス(個人事業主)における実印は個人の実印
法人は代表者印を会社の実印として登録しますが、フリーランス(個人事業主)は屋号の入った実印は持てません。
よって、実印 = 個人名 となります。
実印は、プライベートの重要な契約(保険やローン契約等)において使用されるものですが、フリーランスの場合、大きな契約などで実印を求められるケースがあります。
つまり、フリーランス(個人事業主)は個人の実印を事業でも併用することになります。
そのため、フリーランスを開業するにあたっても個人の実印を用意しておくとよいでしょう。
社会人になった時点で実印を作った人も多いと思いますが、まだ持っていない人は作っておきましょう。
事業用丸印
事業用丸印は、契約書などの比較的重要な書類に押すハンコです。
屋号名のみ・個人名のみでも作れますが、屋号名+個人名の二重書きでも作れます。
二重書きとは、二重になった円の外側の円の枠内に屋号名、内側の円内に代表者名(個人名)を彫るデザインで、法人の代表者印(法人の実印)はこのタイプです。
丸印を使うのは「一般的な商慣習に倣うため」と言えるでしょう。
「事業者らしい印象を与える」「法人の印と並んで押印されていても見劣りしない」と言った体裁を整えるためだと私は解釈しています。
これは理屈云々の話ではなく、印鑑に馴染んできた日本的な感覚あるいは相手への印象の話です。
契約書等で個人の認印を使うと(問題はなくても)不必要に相手に不安がられてしまう、そんなことが無いとも限りません。
スムースに手続きを進めるために格好の付いた判を使っておくのが無難だろうという判断です。
重要書類には個人の実印を使うこともできるので、丸印は絶対に必要というわけではありません。
実印は求められた時のみ使用したいという人は丸印を持っておくとよいでしょう。
事業用角印 (認印)
請求書・見積書・領収書など日常的に使う機会の多い印鑑で、法人で言うところの「社印」と呼ばれる認印です。
屋号名のみが一般的で、屋号がない人は個人名でもかまいません。
一般的に四角い形状の角印が用いられることが多いため、認印をさして角印と呼ぶことが多いようです。
丸印との区別が付きやすい意味もあるのでしょう。
銀行印
銀行口座に登録するための印鑑です。
例えば、認印のように日常的に使っている印鑑と銀行に届け出る印鑑に同じものを使ってしまうと、それだけ印影を偽造されるリスクも高くなります。
銀行は自分のお金(財産)を預けておくところなので、セキュリティ上の観点から専用の印鑑を用意します。
最近では口座を開設するのに印鑑が不要な銀行も増えているので、印鑑の届け出が必要な銀行を利用したい時は用意するとよいでしょう。
なお、屋号名の入った銀行印を使えるかは銀行によって異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。
その他の印鑑 (ゴム印)
その他業務でよく使われる各種ゴム印(スタンプ)があります。
例えば、封筒などに押す住所の入った住所印などがあります。
Webフリーランスはあまり使う機会がないかもしれませんが、必要があれば用意しましょう。
印鑑に使われる書体
印鑑には次のような書体がよく使われます。
- 篆書体
- 印相体(吉相体)
- 古印体
- 行書体
- 隷書体 etc…
篆書体・印相体は、実印・銀行印でよく使われます。
装飾的で判読しにくい複雑な様式の書体なので、見た目の印象もさることながら偽造防止の目的にもなります。
古印体・行書体・隷書体は読みやすい書体で、認印によく使われます。
最終的には自分の好みで選べばよいのですが、一般的には重要な役割の印鑑ほど複雑な書体が用いられるようです。
印鑑の材質
印鑑において重要なのは、捺印された印影が自分の印鑑と一致することです。
そこで考慮しておきたいのが印鑑の保存性です。
印鑑の材質が粗悪すぎると経年劣化によって変形したり破損する可能性があり、そうなると印影が一致しなくなります。
特に、実印や銀行印のような重要な印鑑の変形は避けたいところです。
とは言え、印鑑専門店で作成していれば基本的には問題ないと思われます。
柘・楓などの木材、象牙・牛角といった動物の牙や角、チタン金属など材質は色々ですが、その辺は好みで選べばよいでしょう。
印鑑のサイズ
印鑑にはいくつかのサイズがあり、用途によってサイズの使い分けもされます。
個人用
個人用の印鑑のサイズは10.5mm〜18mmで1.5mm間隔で種類があります。(10.5mm, 12mm, 13.5mm, 15mm, 16.5mm, 18mm)
一般的には 実印>銀行印>認印 というように、重要な印鑑ほど大きいサイズで作られることが多いようです。
また、女性は男性よりも1 or 2サイズほど小さいものを作ることも多いようです。
例えば、
男性なら実印を16.5mm、銀行印を15mm、認印を12mm
女性なら実印を15mm、銀行印を13.5mm、認印を10.5mm
といったイメージです。
サイズについても一般的な慣習の話であり、絶対にそうしなければならないという話ではありません。(逆に言うと、特別な理由がなければ慣習に合わせておけばよい)
事業用
フリーランスの事業用の丸印と角印は、法人に使われる印鑑のサイズを当てはめて考えてよいでしょう。
法人用は丸印で15mm, 16.5mm, 18mm, 21mm、角印が21mm, 24mm, 27mmあたりがサイズのバリエーションです。
電子印鑑の作成
今や日常的な書類・資料はPDF等データでの受け渡しが大半ですが、請求書など紙ならば印影を記しておきたいものには電子印鑑を使いましょう。
私も以前は印なしでPDFの請求書を送付していましたが、クライアントから「印はないのか?」と指摘されたことがあり、それをきっかけに電子印鑑を作成しました。
印があってもなくても変わらないと言ってしまえばそれまでなのですが、やはりクライアントによっては印鑑に対してある種の信頼性を持つようです。
また、送付はPDFだとしても、相手方はプリントアウトして保存されることも多いため、その時に印がある方がしっくりくるのでしょう。
「印鑑があることでやり取りがスムースになる」と言われますが、私自身もそのことを実感したエピソードです。
なお、電子印鑑を作成するのは角印(認印)のみでかまいません。
と言うか、実印・丸印・銀行印など重要な印鑑は基本的には作るべきでないと思っています。
なぜなら、電子印鑑は画像ファイルなので、簡単に盗用できてしまうデメリットがあるからです。
利便性と安全性のバランスから考えると角印(認印)のみ作成しておけばよいでしょう。
電子印鑑は自分で画像を作ってもかまいませんし、ハンコ屋さんでも電子印鑑を作成してくれるサービスがあります。
綺麗に電子印鑑を作成したいなら、実物の印鑑と一緒にまとめてオーダーしてしまうとよいでしょう。
電子印鑑にはタイムスタンプや識別情報等のデータが付与された公的証明力の強い電子印鑑サービスもあります。
導入にはランニングコストがかかるため、フリーランスや小規模事業者間の取引においては今回解説しているような単なる印影画像を使うことも多い気がします。
電子印鑑も作れるネット通販サイト
以下のサイトは電子印鑑の作成サービスがあります。
まとめ
フリーランス(個人事業主)が知っておくべき印鑑の知識についておさらいしましょう。
- 最低限用意しておきたいのは実印・丸印・角印の3つ(個人的な推奨)
- 角印(認印)は電子印鑑(印影画像)も作る
- 印鑑の種類によって書体・材質・サイズを考慮する
- 銀行印やその他ゴム印等は必要があれば作成する
今後どのように印鑑文化が変化していくのかわかりませんが、私たち民間の壱事業者はまだまだ使う機会は多いでしょうから、ぜひ印鑑について最低限の理解を持っておきましょう。
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