Web業界にはフリーランスで働くデザイナー・クリエイターが多くいます。
フリーランスとは、特定の企業や団体に所属せずに(雇用されずに)自らの専門技術を提供することで報酬を得る働き方です。
法的には個人事業主に分類されます。
日本の自営業主(雇用をせず一人で働いている人)の人口は、内閣府の調査によると推定で最大341万人程度(複業含む)とされていおり、その中でフリーランスに該当する働き方をしている人の割合が増えてきています。
どこにも属さずに自由に働いているイメージのあるフリーランスですが、良い面もあれば悪い面もあり、フリーランスになったものの自分には合わず再就職をする人もいます。
この記事では、内閣官房日本経済再生総合事務局が実施した『フリーランス実態調査結果』のデータを参考にしながら、フリーランスという働き方のメリットやデメリットについて、私自身の経験もふまえて解説していきます。
もしあなたがフリーランスを目指したいと考えているなら、まずフリーランスの実態を理解しましょう。
フリーランスWebデザイナーのメリット
上のグラフはフリーランスで働く理由やその働き方への満足度を示したものですが、概ね次のようなことにフリーランスとしてのメリットを感じていると言えそうです。
時間・場所・環境にとらわれない自由な働き方
おそらく最もわかりやすいフリーランスのイメージは、時間や場所に縛られない自由な働き方でしょう。
電車に揺られながら会社に向かい、定時に出社し仕事を終えたらまた電車に乗って帰宅する。
こういった会社勤め特有の移動や時間のルーティンから解放されるだけでも生活スタイルや働き方は大きく変わります。
仕事とプライベート共に充実したワークライフバランスの実現のためにフリーランスを選ぶ人は多いでしょう。
また、職場上の付き合いや人間関係を気にせず、仕事に専念できるストレスフリーな環境を得やすい点もフリーランスのメリットです。
ただし、リモートワーク(テレワーク)が普及しつつある最近の社会状況を考えると、会社に属していても在宅ワークが中心になっていく可能性はあります。
特にIT・Web業界は、以前から実施している企業もあり、そもそもリモートワークに寛容な業界なので、他の業界よりもスムースにテレワークの文化は根付いていくと考えられます。
もしフリーランスになりたい大きな理由が在宅ワークにあるとしたら、必ずしもフリーランスだけが実現方法ではなくなるかもしれません。
その他のメリット・デメリットも考慮してから考えてみましょう。
自分の裁量で仕事ができる
フリーランスは自分の専門技術や得意なことを売りに仕事をする職業です。
会社勤めの場合、必ずしも自分の能力を十分に発揮できるとは限りません。
それは、会社の事業、組織の体制、役職、担当範囲等に応じて定められた仕事をするからですよね。
また、同じ会社に長く働いていれば、似たような仕事をし続けることにもなります。
対して、フリーランスならば、自分のスキルを活かせる内容や興味のある案件に関わっていくことができます。
様々な案件に関われたり、仕事に対してやりがいを感じやすいのはフリーランスの醍醐味と言えるでしょう。
頑張り次第で収入アップも夢じゃない
フリーランスになると安定した収入を得るのも大変である一方、自分の頑張り次第で収入を大きく伸ばすこともできます。
例えば、サラリーマンが年収1000万以上の収入を得ようとするとなかなかに難しいです。
一流の企業に所属するとか、責任あるポジションに就くなどしないと年収1,000万越えは難しいかもしれません。
少なくとも、サラリーマンで1000万稼ぐよりも、フリーランスになって1000万以上稼ぐ方が実現しやすいのは間違いないでしょう。
勤めている会社によって年収の上限は決まってしまいますが、フリーランスであれば年収の上限は伸ばすしていけます。
フリーランスWebデザイナーのデメリット
世にある多くの情報ではフリーランスの良い面が強調されがちです。
しかし、フリーランスの実態を知るには、むしろデメリットを理解しておくほうが重要かもしれません。
私個人が感じていることも踏まえ、知っておいてほしいフリーランスの現実を解説します。
収入が不安定
フリーランスは自分が働いた分だけ収入を得られるので、働かなければ収入は一切ありません。
特に、会社員で働いた経験がある人は、給与として毎月決まった額が振り込まれるのが当たり前なので、フリーランスの収入の不安定さは想像しづらいでしょう。
まずは仕事を自ら獲得しにいかなければなりません。
収入の予想も立ちにくく、精神的にも辛く厳しい時期を経験することになります。
さらに、取引相手の支払いサイクルによって入金タイミングが左右されることもあげられます。
納品をして請求書を発行しても、すぐに報酬が支払われるとは限りません。
例えば、月末締めの翌月末払いや翌々月の15日払いなど、相手の支払いサイクルに従わなければならず、実際に入金を確認できるまでは本当に支払われるのかという不安もあります。
Web制作は制作期間が比較的長いため、着手(契約)から報酬を受け取るまで半年近くかかった、なんてこともある話です。
このような収入事情のもう1つの側面は、時期によって収入額の変動が大きいことです。
例えば、ある月は入金が重なって100万円の振り込みがあったが、その翌月は入金が5万円しかなかった、というように月々の売上の差が激しいことがあります。
給与のように毎月決まった金額であれば計画的にやりくりできますが、月の増減幅が大きいと金銭感覚もわかりづらくなります。
一度に多くの金額を手にすると「少しくらい大丈夫だろう」と余裕を感じ、気づいたら使い過ぎてしまった、なんてこともやってしまいがちです。
人それぞれの状況によりますがフリーランスであれば、大なり小なり、収入の不安は常につきまとうものであり、それゆえにしっかりとお金の動きを管理していかないとなりません。
つい働きすぎてしまう
お金の不安がつきまとうフリーランスだからこそ「仕事があるうちは働いて稼いでおこう」という心理が働きます。
その結果、スケジュール目一杯(あるいはオーバーぎみ)まで仕事を請け負ってしまいがちです。
しかし、フリーランスにとって「仕事がなければ収入がなくなる」のと同様に「身体を壊して働けなくなったら収入がなくなる」ことも忘れてはなりません。
フリーランスは身体が資本です。
自身の健康管理も大切です。
また、Webデザイナーやエンジニアなど、在宅でもできる仕事の場合は特に、プライベートとの境界が曖昧になりやすいです。
フリーランスは時間を自由に使えるがゆえに、ダラダラ仕事をしてしまったり、休みをとらずに働いてしまいがちです。
上手に自己管理できればワークライフバランスは充実しますが、意識的に管理しないと生活がかなり乱れてしまうのがフリーランスです。
セーフティネット (各種補償・制度) が手薄
フリーランスは会社員に比べてセーフティネットが不十分と言えます。
その筆頭が社会保険です。
まず、労災保険と雇用保険(失業手当)はフリーランスにはありません。
会社員が加入する健康保険(協会けんぽ、保険組合等)と厚生年金は会社側が費用の半分を負担してくれますが、個人事業主であるフリーランスはそうはいきません。
健康保険は国民健康保険に、年金保険は国民年金にそれぞれ加入しますが、どちらも全額自己負担です。
また、年金の支給額も厚生年金に比べて国民年金はずいぶんと金額が下がるので、任意で上乗せの年金保険(国民年金基金等)に加入するなど自分で対策をしていくべきでしょう。
他にも、有給休暇、産休・育休、病気やケガなどで働けなくなった時の休業補償など、会社員なら利用できる補償・制度はフリーランスにはありません。
フリーランス人口は年々増えてきているため、将来的にはセーフティネットが拡充されていくのでしょうが、現状日本の制度はまだまだ不十分と言わざるをえません。
人脈を築きにくい・孤独を感じやすい
フリーランスは基本的に一人で仕事をするので、人に会ったり新たに人脈を拡げるような機会が少なくなりがちです。
誰とも会わず、会話もなく、家から出ずに仕事をする毎日なので、孤独を感じやすい環境でもあります。(逆に一人が好きな人なら気楽な環境です。)
コミュニティや会合等に参加するなど、フリーランスだからこそ意識的に人に会う機会を作った方がよいでしょう。
社会的信用度が低い
フリーランスは社会的信用度が低いです。
社会的信用度が低いと、クレジットカードが作れない、ローンが組めない、賃貸契約の審査が厳しくなる、などの問題が起こりやすいです。
ただし、フリーランスだから一律に信用度が低いというわけではありません。
フリーランスとして一定期間活動し、収入の実績を積んでいればローンを組むことだってできます。
フリーランスになって最初の頃(2, 3年くらい)は、特に社会的信用度が低い時期と、あらかじめ考えておきましょう。
取引上の立場が弱い
仕事の取引相手との関係性においてもフリーランスは弱い立場にあることが多いです。
本来、取引において発注者と受注者の双方の立場は対等ですが、残念ながらフリーランスを下に見るようなクライアントは今でも存在します。
- 発注外の業務も無償でやらせようとする
- 納品後に値引き交渉をしてくる
- 支払期限を遅れる
- 最初から報酬を払うつもりがない
- etc…
こういった話は珍しくもないです。
フリーランスなら泣き寝入りするだろうという打算ありきで接してくる輩も一部にはいるので、自分の身は自分で身を守らなくてはなりません。
本業以外の雑務が増える
フリーランスになれば自分の好きな仕事ができるとイメージしてしまいがちですが、実際はそれだけではありません。
- 本業務以外も含めた問い合わせ対応
- 見積書・請求書等の発行
- 確定申告(経理)
- 営業(仕事の獲得活動)
会社にいれば各担当者がやってくれていたこと全てを自分一人でやらなくてはなりません。
ビジネスをする上で発生する業務を一通り経験し学べるとも言えますが、何だかんだで時間を取られるものです。
フリーランスWebデザイナーに向いている人
フリーランスのメリット・デメリットを確認してきましたが、それらを踏まえてフリーランスの働き方がどんな人に向いているか、私が思うポイントを解説します。
向上心や成長意欲が強い
フリーランスは専門知識や技術を提供するプロフェッショナルです。
よって、継続的に勉強をし絶えずスキルを磨き続け、自分の市場価値を高めていける人がフリーランスに向いています。
成長が止まると、フリーランスとしての市場価値も下がってしまうからです。
では、自分の価値を高めるための行動やモチベーションはどうやって維持するのか、それはやはり仕事への熱意や好奇心です。
月並みですが、仕事が好きであることや新しい技術も前向きに吸収していけることがフリーランスにとって大切な要素と感じています。
一定のコミュニケーション能力がある
クリエイティブ職の人は、一人で黙々仕事ができる職人気質な人が多くいますが、フリーランスになったらコミュニケーション能力も必要です。
- 相手の話の意図を汲み取れること
- 専門的な内容を噛み砕いてわかりやすく説明できること
- 自分の考えをきちんと言語化しより良い提案ができること
クライアントにはWebに詳しくない人もまだまだ多く、プロから見れば的外れなことや辻褄の合わないことを求めてきたりします。
そんな時でも、クライアントが真に何をしたいのか、目的・ゴール・解決策などを一緒に整理しながら共有していくことで制作をスムースに進めていけます。
逆を言うと、コミュニケーションを疎かにすると、仕事が進んでいく中で認識の食い違いから修正が必要となり、結果的に時間や対応コストを多く費やすことになりかねません。
実現したい働き方や生活のイメージがある
会社員とは違う大変さがフリーランスにはあります。
漠然とフリーランスになるよりも、実現したい働き方や生活スタイルなど、なるべく具体的なイメージを持っていると、大変な時期があっても踏ん張れるでしょう。
- 色々なプロジェクトやクリエイティブに携わりたい
- 地方に移住して地域密着で活動したい
- セルフブランディングして自分で顧客を開拓したい
- パラレルワーク(複業)で別の仕事と並行したい
- etc…
もちろん自分なりの動機があればそれでよいのですが、フリーランスだからこそ実現できることや目標を持っていると、フリーランス人生はより充実したものになると思います。
繰り返しになりますが、フリーランスを選ぶ理由が在宅ワークをしたいということであれば、必ずしもフリーランスに固執しなくてもよいかもしれません。
Web系の仕事は業務の大半をリモート化できるので、会社員のままリモートワーク(テレワーク)への切替を認めてくれる会社もあります。
コロナの影響もあり、リモート化を進めている企業を見つけるなど、フリーランスだけに絞らずに検討してみるのも一つの方法です。
まとめ
よく聞く話ですが、フリーランスになってみると、会社のありがたみがわかります。
- 自分でとってこなくても仕事がある
- 自分がミスをしてしまっても会社(上司)がカバーしてくれる
- 一時的に働けなくなったとしても周りがフォローしてくれる
- 保険・補償・福利厚生が充実している
- 経費は会社が負担してくれる
- 確定申告や納税を代わりにやってくれる
例えば上記は会社勤めの恩恵と言えます。
ここまでの解説を通して、どちらかと言うとネガティブな面が私が強調していると感じるかもしれませんが、決してフリーランスを勧めていないわけではありません。
上図の統計データの通り、フリーランスで働いている人の8割は今後もフリーランスを続けたいと回答しています。
フリーランスになった人はなぜフリーランスを続けたいと思うのか?
もちろん人それぞれに理由があるでしょうが、その一つとして
「(無意識にでも)自分の人生を自分でコントロールしている」と感じられるから、と私は思っています。
人は、自分で納得し自らの意思で選択した行動に対し、満足感や幸福感をより感じやすい生き物です。
逆に、以下のようなことを繰り返していると、心から納得したり満足することは難しく、幸福を感じにくくなります。
- 誰かに命令されたのでやっていること
- 理由がわからないままやっていること
- 「そういうものだから」と割り切ってやっていること
これらの行動は組織で働いている時は少なからず経験することでしょう。
しかし、フリーランスになると全てのことは自分の決定次第です。
例えば、今回の仕事依頼は引き受けるべきか断るべきか、そんなことも自分で決められます。
そもそも、フリーランスになること自体誰かに強制されたものではなく、自分で選ぶ道です。
責任は伴うもののあらゆる物事を自分で決めていく。
それがフリーランスの働き方の充実感や満足感に繋がるのではないかと考えています。
だから、フリーランスは魅力的で楽しい生き方だと言えます。
一方で、会社員時代には感じられなかったシビアな現実もあることは受け入れていかないとなりません。
ただし、社会的な流れとしては、以前よりもフリーランスに挑戦しやすい環境になってきています。
日本でも政府が副業・複業が推進するようになったからです。
「仕事を辞めてフリーランスになる」というリスクをとらなくても、新たなキャリアに挑戦できる社会へと変わってきています。
フリーランスになりたいけど不安も大きいという人は、副業・複業から始めみるのがよいでしょう。
会社勤めもフリーランスも両方経験したうえで、自分に合った働き方を選んでみてはいかがでしょうか。
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